よく知られたことですが米国やカナダでは外国人の両親の子供でも出生と同時に国籍が付与されます。南北アメリカのほとんどの国々ではそうなっていますが、やはり新しく移民した人々で創られた国という歴史的背景がありますね。
ところがその他の国でも、一定の条件を満たしていれば両親が外国人であってもそこで出生したということで血縁に関係なく現地国籍が付与される国があります。フランスもそれに入ります。(そのために西インド洋にあるコモロから仏海外県マヨットへの『近場出産旅行』が多いのが現状です。)
フランスで出生すれば条件付きで仏国籍が付与される(現行の出生地主義)
ここでざっと知ってることのおさらいをすることにします。
出生地がフランスでなくても生まれた子供のどちらか片親がフランス国籍を持っていればその子供は出生した時点で仏国籍を得ています。これは日本と同じ理屈で血統主義での国籍付与ですね。
では、フランス生まれの子供の両親のどちらもがフランスに滞在する外国人である場合にはどうなるかというと・・・。
①自分から申請手続きをして未成年のうちに帰化する
その子供が未成年のうちは13歳になれば、親権者または後見人が付き添って自ら申請手続きをする、さらに16歳以上になれば本人単独で手続きを取ることが可能です。フランス滞在5年以上の証拠が提出でき申請時点でフランスに滞在していることが必要です。
それからフランスには色々な国の出身者がいるのですが見ていると移民してきた外国人であっても条件が整えばどんどん国籍を申請してフランス国籍を取っているのです、これで親のうち1人が帰化することにしてその未成年の子供ということで名前を連ねて一緒に帰化する、という方法もあります。(手続きなどの詳細は長くなるので省きます)
これらは自らが国籍を希求するいわば『積極的』国籍取得で、そのため、まずあり得ないストーリーですが、もしもこの子供が日本人であれば自分から希望してフランス国籍を取得したということで、フランス国籍取得と同時に日本国籍を喪失します。(日本の国籍法11条1項)
②18歳になると自動的に仏国籍が付与される
①は上でも説明した通り積極的に国籍取得するケースです。
それでは、何もしないで18歳になったとします。
ある外国人を両親に持つ外国籍の子供がもうすぐ18歳になります。成人になると滞在許可証が必要です、これがないと不法滞在になってしまいます! さらに進学や就職にも事欠きます。
フランスでは外国人の子供には滞在許可証は義務ではなくIDカードが発行されるのみですがこれを成人の滞在許可証にする方法や必要書類が不明です。親に聞いても滞在許可更新の手続きをしたのはもう何年も前なので現行の状況がわかりません。滞在許可申請・発行の仕組みや基準、必要書類は頻繁に改変されますし、個々の状況によっても異なりますので両親の場合をそのまま当てはめることはできません。
回りに同じ様な立場の人がいなくて相談もできないので自分で県庁に行って問い合わせようとしても窓口は予約者だけ対応ということで閉まっています。メールか電話での問い合わせになるようですが、まずネット検索してみました。
!!!するとこんな結果が出てきました。
[18歳、滞在許可証]で検索したのですが、中身を見ると大体が『フランスにやって来た後・・・・』となっていて、自分の場合はここで生まれたので当てはまらないなと思いながら調べ続けると、とある政府のサイトの一番上の行に『フランス生まれで外国人の両親を持っている場合』の仏国籍についての説明が見つかったのでした。「え~っ、そうなの・・・。」
両親は長年フランスに住んでいますが、仏国籍は申請していません。もう少し説明を読んでみると『何もしなくても18歳になり、その時点でフランスに滞在していて11歳以降通算5年間の滞在期間を満たしており外交官の子弟でなければ自動的に仏国籍が付与される』という決まりになっているとのことです。
それでは自分はもうすぐフランス国籍者なのだから滞在許可証を取らなくても不法滞在者にはならないんだ、とちょっと安心です。
しかし、更に説明が続きます。『しかしながら、国民IDカードやパスポートを得るためにはフランス国籍を付与されたという証明をしないといけない、そのためにはフランス国籍証明書を申請して取る必要がある』とのことです。必要書類が色々あって生まれた町の役所発行の出生証明書、学校の11歳以降の通学証明書、身分証明書(現国籍でのパスポートや未成年用のIDカードで可?)、証明写真などですがどれも簡単に手に入りそうです。それを持って地域の裁判所に申請することになるようです。
そうですね、成人後身分証明になるカードやパスポートがないと何もできないに等しいです。
両親に話すと、「ええ~っ!」と言われました。彼らは仏国籍には興味が無いので知識が無かったようです。自分たちは外国人だから子供もずっとそうなんだと思っていたと言います。「元の国籍を捨てる気なのか」、とも聞かれましたが調べたら両親の国では放棄しなくても大丈夫ということなので、そのまま持っておこうと決めました。
とりあえずコイン証明写真ボックスに行って写真を撮ってきて、明日以降国籍証明書の手続きについて地域の裁判所に問い合わせることにしました。
日本ではよく知られてないフランスの出生地主義
このようにフランスも”変形”出生地主義なのです、ずっと昔からそうで、民法にも規定されています。
上の架空のストーリーは、本人も両親も何も知らなかったという極端な例ですが、何らかのルートでずっと前からわかっている場合がほとんどでしょう。中には親がそのつもりで移住してきたケースもあるのではないのでしょうか。はじめにあげたように生まれてくる子供に出生地がフランス国であるステイタスを与えるために、モザンビーク沖合にあるコモロからフランス領のマヨット県に一時滞在に来る妊婦が大変多いのも以前から問題になっています。出産後は国に帰るはずですが、後年その子をなんらかの方法でフランスに渡らせてしがみついてでも5年住まわせるとめでたく国籍ゲットですよね・・・。
そしてまた、移民家族の子弟にかなり問題がある場合が多々あるので近年では生地主義(le droit du sol)を廃止するのが良いのでは、と極右派からの指摘も出てきてます。全面廃止となると一悶着あるはずなので、たとえば『通算5年のフランス滞在』という条件を『すべての義務教育をフランスの学校で同国のカリキュラムに従って受けていること(さらには落第点が無く一定の学業成績を修めていることも?)』に変更するなど、条件が制限される可能性はあります。条件付きにしたりしなかったりは過去にもあって、一時期モチベーションレターを提出するという条件が付けられていたこともありました。
おそらく廃止にはできないでしょうが、問題があるケースについては淘汰する方向に向かうような気がします。
と、いうことですが、上記の架空ストーリー、もしこの子が日本国籍なら自分から帰化したのではなく自動取得なので一時的に二重国籍になれます。国籍選択は20歳までに決定すればいいのでモラトリアム期間は2年近くありますね。
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