突然[遺言書]とかいうとちょっとアレアレ?ですが、先日起こった大きな事件の後、人間の命というものはいつどこで失われるかわからない、という至極当たり前な道理に気づきました。
私のような凡人は暗殺など絶対ありえませんが、急病でなくても、事故やテロなどでいつ自分がどうなるか、なるほど知るよしもありません。
そこで遺言書、特にフランス語を母国語としていない国出身の人のフランスでの遺言書はどのようなものが認められるか気になりました。また、日本在住の外国人の人たちには日本語の読み書きはできない人も多いのでこのような疑問があるはずですが、日本では外国人が自分の母国語で書いた遺言は認められるのでしょうか?これもどうなのか、と調べてみました。
遺言書の型式
遺言書の型式は日本と同じく3種類あります。この中のどれかの型式で作成すれば遺言書として認められます。
- 自筆遺言書 日付署名(捺印)入り自筆遺言書、自分で保管しても公証人に預託しても良い
(Le testament olographe) - 公正証書遺言 証人が立ち会い、公証人が日付署名(捺印)して作成、写しが公証人の元で保存される
(Le testament authentique) - 秘密証書遺言 日付署名した遺言書を封筒に入れ封印、立会人と共に公証人に提示しその存在を登録し てもらう。*どちらの国でも非常に稀な方法
(Le testament mystique)
そして場合によっては、これも有効です - 国際的公正証書遺言書 1973年のワシントン条約の批准後1994年に認められた型式、どの言語でも可、また作成は手書きまたはPCを問わない。
(Le testament international)
念のため日本との相違点は、
- 自筆遺言書は日本では2019年からPCで作成することも可能で、署名捺印があれば遺言書として認められます。フランスは2022年現在、手書き+自筆サインでないと認められません。
- 秘密証書遺言は日本では公証人に遺言が存在することを知らせるものの、保存は自分で行います。フランスでは公証人の元で、または自分で保存でも構いません。
- 公証人のところで作成する場合、フランスでは国際的公正証書遺言書の場合どの言語でも作成可能、しかし日本では日本語のみです。
フランス語が母国語ではない外国人の遺言
これは、フランス語が読み書きできない外国人の自筆遺言が無効とされた事例です。
晩年フランスに居住していたフランス語が不自由なあるドイツ人が、自筆で作成した署名・日付の入ったフランス語の遺言書は裁判で無効とされました。
この遺言書と同じ内容の文章でドイツ語で書かれたものもほぼ同時に発見されていましたが本人の自筆ではなく署名・日付もありませんでした。フランス語の遺言書の内容を本人にドイツ語で説明したものだろうという判断になり、フランス語の遺言書のテキスト自体は本人の発案ではなく書写であるとされたためです。
この遺言書では遺言の主の実妹を包括的相続人に指定し、利用できる部分を彼女に遺贈するとしていたのを、子供たちによって遺言書が無効であると訴えられたそうです。
フランスでは遺言は、遺言の主が理解している言語で書かれていなければならないとされます。この言語はどんなものでも良いとのことなので、まず最適なのは本人の母国語です。この場合、遺言の主のドイツ人がこのドイツ語の文も同じく自署して署名・日付を入れておけばある程度までは有効であったかと思われます。
https://www.legifrance.gouv.fr/juri/id/JURITEXT000043658739?isSuggest=true
次は、第三者(公証人と通訳・翻訳者、証人)を介して作成した場合でも無効とされた例です。
フランスに住む母国語がイタリア語の人が公証人の事務所で通訳・翻訳人の補助により作成したフランス語で書かれた遺言書は公証人が間に立って作成、本人署名・日付があったにも関わらず無効とされました。
フランスでフランス人が公証人のところで遺言書を作成するのと同じやり方で、イタリア語ーフランス語通訳を間にはさんで本人の意思が反映されているはずなのに、無効の判決が下されたには驚きでした。
なんだか納得が行きませんが、ここでは遺言の主が遺言書のフランス語が理解できなかったのだ、とみなされました。
このケースではやはり、相続人の一人が自分に不利な遺言になっている、と訴訟を起こしたものでした、金銭が絡むとほんとコワイですね。
国際的公正証書遺言書は遺言書の主が理解するいかなる言語でも書くことができるので、この場合はイタリア語の内容をフランス語で公証人に説明できる通訳を使ってイタリア語で作成しておけば良かったわけです。
https://www.legifrance.gouv.fr/juri/id/JURITEXT000045308921?page=1&pageSize=10&query=testament&searchField=ALL&searchType=ALL&sortValue=DATE_DESC&tab_selection=juri&typePagination=DEFAULT
外国語が母語の人は一体どうすれば?
それでは日本語が母国語の私たちはどうすればいいのでしょうか?
自分がいなくなってからの後なので何を言われても反論できません。その頃には『あの日本人の婆さん(爺さん)はフランス語なんてほとんどできなかったんだよ』ってことにされてしまいそう。それに、遺言にかかわって手続きをする人たちは大体は利害も絡むので結構ネガティブな対応もするだろうと想像してしまいます。
語学試験の資格もしまっておいた証明書もなかったことにされてしまうとか、ありえますね~。フランスで学位を取ったとかいう人で周囲の誰でもそれを知っていたならその事実は消されないはずですが、そんな高等な人ばかりではありませんですよね。
学位など無くてもDELFでC2を取っていたとかなら、それなら私もフランス語だけで書いてもいいかなと思ってしまうのですが、やっぱりこれもどうとも言えません。
私は日本語で手書き、そして同じく手書きで頑張ってフランス語バージョンを作っておこうと思います!
でも公証人のところで遺言書を作成してもやっぱりフランス語と日本語の2バージョンで作っておくと安心ですよね。
日本語バージョンのために日本人または日本語ができる立会人2名をアサインする必要があるのと両方のバージョンで2通の作成で公証人に支払う費用は倍額になりますが、確実ですので資産が結構ある方はこれで行っておいた方が絶対いいと思います。
遺言書作成時に公証人のところに持っていく書類の例
- Carte d’assurance maladie. (フランスの健康保険カード=Carte Vital)
- Numéro d’assurance social. (社会保険番号)
- Ancien testament. (以前の遺言書、もし該当するなら)
- Jugement de divorce ou de séparation.(離婚または離別判決書)
- Acte de naissance ou baptistaire. (出生証明書=ご自身の戸籍抄本の翻訳になるはずです)
- Contrat ou certificat de mariage. (結婚証明書、結婚時に契約を結んだならその証明書)
- Un petit bilan de vos avoirs (sinon en connaître les grandes lignes)(銀行口座残高、不動産権利書、などの財産に関する情報)
日本に住む外国人の場合
日本に住む外国人の遺言も自筆(またはPCで作成して署名捺印)で外国語で書いても構いません。
もっとも、日本の財産について日本で手続きをする場合、日本の民法の方式で作成した方が最善であることは言うまでもありません。その場合は日本語だけになり、公証役場にて手続きする必要があります。
1.「自筆証書遺言」「秘密証書遺言」の要件を満たしていれば使用する言語は問われないので、外国語で「自筆証書遺言」や「秘密証書遺言」の作成は可能です。
ただし自筆証書遺言に法的効果を持たせるには、全文自筆、もしくは財産目録をパソコンで作成し、プリントアウトしたものに自筆で署名が必要です。また日付と氏名の記入、押印、変更がある場合は変更履歴の記載をしなければなりません。
2.公証役場で公証人が作成する「公正証書遺言」は、外国語では作成できません。当日必ず通訳が立ち会って通訳し、それを基に公証人が日本語で遺言を作成します。
当日は本人と証人2名、通訳が一緒に公証役場に赴きます。本人と証人2名の前で公証人が遺言の内容を読み上げ、通訳者が随時これを通訳します。 内容に問題がなければ、本人と証人2名 が証書に署名・押印します。(通訳者は通訳するだけではなく署名捺印もする必要がありますので、あらかじめこれを伝えて承諾をもらっておく必要があります)
そして、完成した 原本は公証役場が保管し、正本と謄本が本人に手渡されます。
遺言書なんて縁起が悪いと思ってしまいますが、やはり年齢にも関係なく作っておくといいと思います。イギリスの例ですが、あるカップルが家を購入する時、まだ若いのに遺言書を作成するようアドバイスされたそうです。
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